静岡済生会総合病院 医学研究センターの活動
当院では医学研究センターを設置し、疾患の原因や病態の解明、新たな診断法・治療法・ケア法等の開発を通じ、医学・医療の発展に寄与することを目指しています。
研究内容は、「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」に基づき、倫理コンプライアンス委員会において審議され、承認を得た上で実施しています。研究成果は論文および学会発表等にて公表しています。
「当院における臨床研究に関する情報公開(オプトアウト)」および「研究概要と先進的なとりくみ」を下欄にてご紹介します。業績は2020年以降の主な論文発表です。
また、職員の研究のサポートを行い、院内研究発表会での発表、および静岡済生会総合病院医学雑誌への掲載を進めております。掲載された研究については、下欄のPDFをご覧ください。
医学研究センターの活動についてのお問い合わせは、次のメールアドレスをご利用ください(kyoiku@siz.saiseikai.or.jp)。
医学研究センター長
榛葉 俊一(精神科)
当院における臨床研究に関する情報公開について
人を対象とした臨床研究は、患者さん本人や家族へ文書および口頭で説明を行い、同意を得てから行われます。このような同意取得をオプトイン(opt in)といいます。
臨床研究の中では、患者さんへの侵襲や介入(注)がなく、これまでの診療情報、検査値、画像、診療のために採取し検討が終了した生体試料のみを用いる臨床研究もあります。このような臨床研究については、個々の患者さんから直接同意を得る代わりに、ホームページなどで臨床研究についての情報を公開し、自分の情報などが研究に使用されることが拒否できる機会を保障することが必要とされています。このような手法をオプトアウト(opt out)といいます。下記の臨床研究の対象に該当され、研究への参加を希望されない場合は各研究の担当者までご連絡ください。
注)
侵襲:検査、処置、手術、投薬などを行うこと
介入:投薬、手術などの治療を行う、または行わないこと
研究概要と先進的なとりくみ
-
手外科・整形外科研究
研究員:矢﨑 尚哉 (副院長・手外科・マイクロサージャリーセンター部長兼リハビリテーション部長)タイトル 末梢静脈穿刺および末梢静脈カテーテル留置に伴う合併症の低減の取り組み 研究員 矢﨑 尚哉 (副院長・手外科・マイクロサージャリーセンター部長兼リハビリテーション部長) 概要 末梢静脈穿刺および末梢静脈カテーテル留置は総合病院において治療に不可欠な処置である。現状では視診および触診により静脈の位置を把握して穿刺している。2019年以降、神経症状を伴う合併症数を全例記録しているが、禁忌としている橈骨茎状突起周辺での穿刺に伴う橈骨神経障害は減少していない。Difficult intravenous access(以下DIVA)と呼ばれる静脈穿刺困難例においては前腕部の静脈の同定が視診、触診では困難で、橈骨茎状突起の周辺の橈側皮静脈のみが同定可能な例が多いからである。1年前から看護部、医療情報課と協働し、穿刺回数、カテーテルの生存期間を記録して、データを抽出可能としている。このデータを解析することで、DIVAとなる因子が明らかになることが期待されている。
DIVAに対処する方法として超音波診断装置を利用した静脈穿刺が有用とされている。しかし、モニターと穿刺部位の両方を見ながら穿刺するのには習熟が必要である。また救急車内やヘリコプター内で血管穿刺を行う際には揺れを伴うため、モニターと穿刺部位の両方を見ながら穿刺するのには困難を伴う。2024年、足立らはスマートグラスとハンディサイズの超音波診断装置を使用して、視点を動かさずに穿刺する方法を提案した。本法は鶏肉を使用して検討されたが、臨床応用はされていない。今後、モニターを見ながら穿刺する方法とスマートグラスを使用して穿刺する方法の比較検討を行っていきたい。
タイトル 上腕骨小頭骨折の予後不良因子についての検討 研究員 石原 典子(手外科、整形外科、医師) 概要 上腕骨小頭骨折は一般的に骨質の良好な若年者の高エネルギー外傷と、骨質脆弱性を有する高齢者の低エネルギー受傷の二つの受傷機転があるといわれている。近年高齢化社会の影響もあり同部位を含んだ骨折の増加、またそれぞれの症例の骨折形態の複雑化を認めている。その影響で既存の分類では分類困難な骨折型や内固定時のポイントも変化してきているのではないかと考える。全骨折に対する発症数としては、多くはないため、関連病院と協力して多施設共同研究を行っていきたいと考える。 -
病理学研究
研究員:北山 康彦 (病理診断科 部長)タイトル HER2FISH標本のVisualizationについて 研究員 井ノ口 知代(病理診断科、臨床検査技師)
タイトル ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)組織標本アーカイブス 研究員 斎藤 彩香(病理診断科、臨床検査技師) 概要 半世紀前のFFPE組織標本を用いた免疫組織化学を含む分子病理学的な検査を行い今後の有効活用が可能であることを検討している。免疫染色、FISHにおいては概ね良好な結果を得ることが出来た。さらにシークエンス等遺伝子解析が可能かどうかを検討することが課題である。また、古いFFPE標本に特徴的な所見があればそれはそれで有用な情報であると考える。この追加検証については浜松医科大学腫瘍病理学講座(椙村春彦 名誉教授)に協力をお願いしている。
タイトル 遺伝子検査(FISH法)での前処理後に、長期保存が可能か 研究員 滝浪 雅之(病理診断科、臨床検査技師) 概要 ホルマリン固定パラフィン切片におけるFISH法の場合、プローブ結合部位を露出させる前処理として熱処理と酵素処理(プロトコール参照、約1時間半)が必須となっている。通常、この工程は初日に行われ、乾燥後プローブのアプライへと進むのだが、例えばFISH検査が連日行われる場合はかなりの手間と時間の浪費になる。一方、アプライ直前、あるいは翌日に緊急検査(術中迅速検査、剖検等)が入った場合、中断を余儀なくされる場合もある。そこで、プローブをアプライする前の前処理を行った後、保存し、どれだけ長期保存できるか検討をする。長期保存が可能であれば、まとめて処理することで時間および比較的高価な前処理キット試薬の無駄をなくし、臨床医からの依頼に対して迅速に行うことができる。また、現在のFISHはおもにHER2検査が占めているためそれほど多くの検体はないが、この先、軟部腫瘍あるいはリンパ腫等の解析が導入された場合、あらかじめ多めに前処理を行っておけば相互転座等を迅速に処理できるものと考える。
タイトル 複数の抗リウマチ薬使用中に組織型の異なる2回のリンパ増殖性疾患を発症した1例 研究員 服部 和哉(病理診断科 医師)
タイトル 過固定組織検体における抗酸菌染色の前処理の効果について 研究員 黒田 優太(病理診断科、臨床検査技師)
タイトル キシレンの使用量を抑制させる病理組織標本作製法の考案 研究員 黒田 優太(病理診断科、臨床検査技師)
タイトル 病理組織における脱脂効果の基礎的検討 研究員 鈴木 晴菜(病理診断科、臨床検査技師)
タイトル 免疫組織化学染色およびISH法における Inverted section controlの検討 研究員 斎藤 彩香(病理診断科、臨床検査技師)
タイトル 脱気攪拌操作によるホルマリン固定処理時間の短縮について 研究員 土屋 和輝(病理診断科、臨床検査技師)
論文 川端弥生, 五十嵐久喜, 椙村春彦:接合菌類(ムコール菌)同定を目的としたグロコット染色. 医学検査 vol.71 N01(2022) pp.53-60
斎藤彩香, 五十嵐久喜, 北山康彦:ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)組織標本アーカイブス. 静岡済生会総合病院医学雑誌 32(1):31-37, 2022
土屋和輝, 五十嵐久喜, 北山康彦:脱気操作による固定液の浸透性向上. 静岡済生会総合病院医学雑誌 32(1):38-43, 2022
服部和哉 組織型の異なる抗リウマチ薬関連リンパ増殖性疾患が2度発症した1例」臨床病理 2023;40:342-349
Kamo YK, Igarashi H, Sugimura H. Modification of Grocott's staining procedure with heat treatment and oxidation by periodic acid for mucormycosis in tissue: a method to detect Mucor spp. Biotechniques. 2023 Mar;74(3):143-147. doi: 10.2144/btn-2022-0063.
土屋和輝, 五十嵐久喜, 北山康彦:脱気操作による固定液の浸透性向上【第 2 報】. 静岡済生会総合病院医学雑誌 33(1):40-47, 2023
滝浪雅之, 五十嵐久喜, 北山康彦:遺伝子検査 FISH 法における前処理後の長期中断の影響. 静岡済生会総合病院医学雑誌 33(1):24-34, 2023
斎藤彩香, 五十嵐久喜, 北山康彦, 石川励, 山田英孝, 椙村春彦:ホルマリン固定パラフィン包埋(formalin-fixed,paraffin-embedded; FFPE)検体アーカイブスー50年前のFFPE検体を用いた遺伝子解析ー. 医学検査 vol.72 N02(2023) pp.256-263
黒田優太, 五十嵐久喜, 服部和哉, 北山康彦:抗酸菌染色における前処理効果についての検討. 静岡済生会総合病院医学雑誌 34(1):21-29, 2024
滝浪雅之, 五十嵐久喜, 服部和哉, 北山康彦:PAM染色で用いられるチオセミカルバジドの長期使用における再現性の検討. 静岡済生会総合病院医学雑誌 34(1):30-36, 2024
井ノ口知代, 五十嵐久喜, 服部和哉, 北山康彦:HER2 FISH標本におけるCISH法によるVisualization(可視化)の検討. 医学検査 査読内容審議中 -
不整脈科研究
研究員:長谷部 秀幸 (不整脈科 部長)タイトル Omnipolar mappingを用いて右房解剖学的峡部ブロックライン作成 研究員 長谷部 秀幸 (不整脈科 部長) 概要 通常型心房粗動に対するカテーテルアブレーションにおいては、右房解剖学的峡部のブロックライン作成が確立された治療法である。一般的には三尖弁-下大静脈間に隙間なく線状に焼灼する解剖学的アプローチが行われる。
一方で、右房解剖学的峡部には電気的興奮が伝導しない場所が存在し、伝導する部位のみの限局的通電でブロックラインが作成可能という報告がある。
3次元マッピングのEnsiteシステムに搭載されているOmnipolarマッピングは、従来のものとは異なり、電気的興奮のベクトル等のより詳細な情報を与えてくれる。このマッピングを用いて、伝導が収束する部位のみの限局的通電でブロックライン作成が可能か検証する。論文 Hideyuki H, Furuyashiki Y, Yoshida K. Vein of Marshall chemical ablation decreased atrial fibrillation drivers detected by CARTOFINDER. J Cardiovasc Electrophysiol. 2024 in press.
Hideyuki H, Naruse Y, Sano M, et al. Delivery catheter system carries more physiological right ventricular septal pacing than stylet system. J Cardiovasc Electrophysiol. 2024 35:802-810.
Hasebe H, Furuyashiki Y, Yoshida K, Aonuma K. Left posterolateral short atrioventricular Mahaim pathway connecting the left atrium to the left ventricular epicardium. HeartRhythm Case Rep. 2023 9:785-789.
Hasebe H, Yoshida K, Nogami A, Furuyashiki Y, Ieda M. Impact of Interatrial Epicardial Connections on the Dominant Frequency of Atrial Fibrillation. Circ J. 2023 Jun 1. doi: 10.1253/circj.CJ-22-0769.
Hasebe H, Furuyashiki Y, Yoshida K, Fujiki A, Nogami A. Diastolic potentials manifest the extension of a slow pathway to the inferolateral right atrium during fast-slow atrioventricular nodal reentrant tachycardia. HeartRhythm Case Rep. 2022 Nov 19;9(2):91-96. doi: 10.1016/j.hrcr.2022.11.007
Hasebe H, Furuyashiki Y, Fujiki A. Conversion to partial isthmus-dependent flutter during cavotricuspid isthmus ablation: The utility of Advisor HD grid in identifying local fragment electrograms. J Cardiol Cases. 2022 Jun 11;26(4):252-256. doi: 10.1016/j.jccase.2022.05.008.
Hasebe H, Furuyashiki Y. Potential focal drivers of atrial fibrillation at the left atrial roof vein. HeartRhythm Case Rep. 2021 Oct 15;8(1):5-8. doi: 10.1016/j.hrcr.2021.10.003
Phanthawimol W, Nogami A, Haruna T, Morishima I, Hasebe H, Mizutani Y, Naeemah QJ, Shimoo S, Hattori M, Ichihara N, Komatsu Y, Kuroki K, Yamasaki H, Igarashi M, Aonuma K, Ieda M. Reverse-Type Left Posterior Fascicular Ventricular Tachycardia: A New Electrocardiographic Entity. JACC Clin Electrophysiol. 2021 Jul;7(7):843-854. doi: 10.1016/j.
jacep.2020.11.022.
Hasebe H, Furuyashiki Y, Yoshida K. Epicardial bypass tract at the left atrial diverticulum. Eur Heart J Case Rep. 2021 Mar 18;5(3):ytab099. doi: 10.1093/ehjcr/ytab099.
Hasebe H, Yoshida K, Nogami A, Furuyashiki Y, Hanaki Y, Baba M, Ieda M. A simple pacing maneuver to unmask an epicardial connection involving the right-sided pulmonary veins. J Cardiovasc Electrophysiol. 2021 Feb;32(2):287-296. doi: 10.1111/jce.14835.
Hasebe H, Furuyashiki Y, Yoshida K. Temporal elimination of an interatrial epicardial connection by ablation encircling the right-sided pulmonary veins. HeartRhythm Case Rep. 2020 Aug 18;6(11):841-844. doi: 10.1016/j.hrcr.2020.08.006.
Hasebe H, Shinba T. Decreased anxiety after catheter ablation for paroxysmal atrial fibrillation is associated with augmented parasympathetic reactivity to stress. Heart Rhythm O2. 2020 Jun 10;1(3):189-199. doi: 10.1016/j.hroo.2020.05.008.
Hasebe H, Yoshida K, Furuyashiki Y, Nogami A, Ieda M. Oral caffeine intake amplifies the effect of isoproterenol in patients with frequent premature ventricular contractions. Europace. 2020 Aug 1;22(8):1261-1269. doi: 10.1093/europace/euaa069.
Hasebe H, Yoshida K, Nogami A, Ieda M. Difference in epicardial adipose tissue distribution between paroxysmal atrial fibrillation and coronary artery disease. Heart Vessels. 2020 Aug;35(8):1070-1078. doi: 10.1007/s00380-020-01575-3.
Hasebe H, Yokoya T, Murakoshi N, Kurebayashi N. Pilsicainide Administration Unmasks a Phenotype of Brugada Syndrome in a Patient with Overlap Syndrome due to the E1784K SCN5A Mutation. Intern Med. 2020 Jan 1;59(1):83-87. doi: 10.2169/internalmedicine.3430-19. -
脳神経内科研究
研究員:鈴木 康弘 (脳神経内科 部長)タイトル 中大脳動脈皮質枝の位置 研究員 鈴木 康弘 (脳神経内科 部長) 概要 MRIの読影時、大脳動脈の枝は正常にあるのか閉塞しているのか、迷うことが多いため、正常の中大脳動脈の位置をタライラッハ座標上で同定する。
タイトル ラクナ梗塞の入院後の症状悪化の要因 研究員 鈴木 康弘 (脳神経内科 部長) 概要 脳梗塞は入院後も約2割の患者で症状が悪化する。本研究では、脳梗塞全体の内、ラクナ梗塞に絞り、2006年から2024年の患者を対象に、入院後症状が悪化したのはどういう場合か解析する。 論文 Suzuki Y. Risk factors for delayed encephalopathy following carbon monoxide poisoning: Importance of the period of inability to walk in the acute stage. PLoS One. 2021 Mar 31;16(3):e0249395. doi: 10.1371/journal.pone.0249395. -
慢性腎臓病研究
研究員:戸川 証 (副院長・腎臓内科 部長)タイトル CKD患者における橈骨動脈壁と腎機能低下速度についての検討 研究員 戸川 証 (副院長・腎臓内科 部長) 概要 保存期慢性腎臓病(CKD)において動脈硬化が腎機能低下速度に影響していることが知られているが、血管の病理組織変化と腎機能低下速度の関連については明らかでないことが多い。これまで、初回シャント作成時に橈骨動脈の一部を採取し、動脈壁の性状と腎機能低下速度、PWV、大動脈弓石灰化、頸動脈肥厚との関連を検討している。
タイトル E型肝炎後に発症し完全緩解した原発性膜性腎症 研究員 高野橋 誓子(腎臓内科 医長)
タイトル 透析導入時における移動能力の低下に関連する要因についての検討 研究員 永田 有沙(リハビリテーション科 理学療法士) 概要 血液透析導入時後6ヶ月間のALDの推移とイベント発生に関する検討を行なっている。
論文 Takanohashi S, Sugiura T, Koyano A, Ueno T, Rachi H, Shiratori K, Shimasaki M, Igarashi H, Kitayama Y, Togawa A. Complete remission of primary membranous nephropathy following hepatitis E infection. CEN Case Rep. 2023 Mar 2. doi: 10.1007/s13730-023-00780-z.
Shimasaki M, Rachi H, Shiratori K, Takanohashi S, Uyama S, Yamada K, Totsuka Y, Takanohasi A, Shirota K, Nakamura H, Togawa A. Long-term outcomes of anterior chest wall arteriovenous graft with polyurethane. J Vasc Access. 2022 Nov;23(6):930-935. doi: 10.1177/11297298211012205 -
救命救急科研究
研究員:足立 裕史 (元救命救急センター 副センター長)タイトル リアルタイム脳波解析を用いた譫妄モニタリングと予防的治療法の開発
倒立顔の認識能力を比較検討する研究員 足立 裕史 (元救命救急センター 副センター長) 概要 急性の疾患、或いは偶然発見された慢性疾患等によって、日頃住み慣れた環境から医療施設へ、突然の入院生活を強いられる患者数が増加しつつある。予期しない活動性の減退、強要される長期安静臥床は、特に高齢者に於いて、「譫妄」と称される高次認知機能の変調、低下する状態を合併する可能性が高い。ひとたび譫妄を生じると、急性期医療の治療中はもとより、治療後の長期予後も不良となる事が疫学研究に於いて示されており、譫妄の予防は、急性期医療に際して最大の注意点の一つとなっている。譫妄は一定の状態では無く、精神活動(症状)の「揺れ」(fluctuation)が大きな特徴で、臨床上の評価、予測を難しくしている。譫妄を生ずる主要な原因の一つは、不適切な鎮静薬の投与や処置と、結果として生じるサーカディアンリズムの異常、とされている。人工呼吸、疼痛、騒音、処置に伴う苦痛に対して鎮静薬を投与するが、不適切な対応は本来のサーカディアンリズムを撹乱し、健康を損なう原因となる。
本研究では精神状態の変化を連続的にモニタリングし、心的活動の総合作用として現れる脳波、心拍変化の経過を指標として、「精神活動の揺れを連続的に評価しながら動的に鎮静や処置の強度を適切に調節して、譫妄を予防する革新的医療技術を開発する」為に、ベッドサイドに於ける具体的な実用化を目指した。
論文 Taharabaru S, Tamura T, Sato-Boku A, Adachi YU, Satomoto M. Unrecognized Increase in the Midazolam Concentration in Dental Practice after Intermittent Administration. 静岡済生会総合病院医学雑誌 2023;33(1):7-10.
Michiko Higashi, Saori Taharabaru, Yushi U Adachi, Maiko Satomoto, Takahiro Tamura, Naoyuki Matsuda, Aiji Sato-Boku, Masahiro Okuda. Administration of lipid emulsion reduced the hypnotic potency of propofol more than that of thiamylal in mice. Exp Anim. 2023 Jun 2. doi: 10.1538/expanim.23-0010.
Satomoto M, Adachi YU. Erector spinae plane block for back surgery. J Anesth. 2022 Feb;36(1):160. doi: 10.1007/s00540-021-03001-y.
Echizen M, Satomoto M, Miyajima M, Adachi Y, Matsushima E. Preoperative heart rate variability analysis is as a potential simple and easy measure for predicting perioperative delirium in esophageal surgery. Ann Med Surg (Lond). 2021 Sep 13;70:102856. doi: 10.1016/j.amsu.2021.102856.
Maiko Satomoto, Yushi U Adachi. Erector spinae plane block for back surgery. J Anesth. 2021 Sep 17. doi: 10.1007/s00540-021-03001-y. -
小児科研究
研究員:塩田 勉 (小児科 医長)タイトル 社会的ハイリスク症例に対する効果的な支援の検討 研究員 塩田 勉 (小児科 医長) 概要 特定妊婦・要保護児童・要支援児童などのいわゆる社会的ハイリスク症例への支援をすべく、市内の関係機関・関係者を集め、勉強会を行ってきた。虐待予防とポジティブ育児を目指す勉強会、SUPPORT(SUruga maltreatment Prevention and POsitive child Raising Team)カフェである。2-3か月に1回当院に集まり、お互いの活動や考えを共有し、普段困っていることなどを話し合っている。すぐに課題を解決することはなかなか難しいが、このカフェで話をすることで、支援の幅が広がる事例が増えている。今年度は、支援者同士のダイアローグをよりオープンに実践できる場として発展させていきたいと考えている。そして、その効果を評価することを検討していきたい。 -
呼吸器内科研究
研究員:土屋 一夫(呼吸器内科 医長)タイトル 気管支鏡検査中の噴霧スプレーを用いた局所麻酔及びサライバエジェクターの有用性の検討 研究員 土屋 一夫(呼吸器内科 医長) 概要 気管支鏡検査は、肺がんや間質性肺炎、特殊な呼吸器感染症が疑われる場合などに行われる一般的な検査であるが、咳嗽や呼吸苦などが生じることも多く、検査を受ける患者さんにとって苦痛を伴う可能性のある検査である他、検査を行う術者にとっても検査中の咳嗽は検査の一時的な中断や中止の原因になることがある。これまでの研究で気管支鏡検査中に鎮静剤を使うことで咳嗽を減らし、より快適に検査できることが示されており、我々の施設では鎮静剤を使って検査を行っている。一方で適切な鎮静を行なっても、完全に咳嗽を抑えることは難しく、気管支鏡検査をより快適に受けて頂くために更なる工夫が求められている。我々は気管支鏡検査に伴う苦痛の中でも特に咳嗽に着目し、咳嗽を減らすことでより快適に検査を受けていただけるのではないかと考え、気管支鏡検査中の咳嗽を減らすいくつかの工夫を行うことで、検査中の咳嗽を減らし、より快適に気管支鏡検査を受けて頂くことができるかどうかを検証するための介入試験を行なっている。
タイトル 血痰・喀血患者の自然歴および血管内治療効果の多施設前向き観察研究 研究員 土屋 一夫(呼吸器内科 医長) 概要 血痰・喀血は時に命に関わることがあるだけではなく、患者さんの生活の質を著しく低下させる種々の病態に伴って生じる症状である。血痰・喀血に対する治療には、止血剤、血管内治療(責任血管のカテーテル的塞栓術)、手術療法に大別される。大量喀血でない場合には止血剤の投与を行い、大量喀血に対しては、血管内治療や手術療法などの侵襲的治療が行われるが、手術療法は高い死亡率が報告されており、近年では血管内治療が選択されることが多い。また非大量喀血の患者さんに対しての血管内治療の適応基準については根拠となるエビデンスは乏しく、血管内治療の長期的な有効性や治療適応についてはさらなる検証が必要である。そのため、アンケートを用いて症状や生活の質を調査することで血痰・喀血患者の自然歴と治療効果を明らかにし、治療前の症状や生活の質を考慮した治療適応について検討するためのする前向き観察研究を行なっている。
タイトル 癌および癌微小環境の蛋白発現と免疫治療効果との関係 研究員 土屋 一夫(呼吸器内科 医長) 概要 癌および癌微小環境は免疫チェックポイント阻害薬の効果を予測するバイオマーカーとなりうるが、実臨床での利用は限られている。そこで当院で診断・治療された進行非小細胞肺癌症例を対象に、診断時に採取した残検体を利用し、癌および癌微小環境の蛋白発現を免疫組織化学法で評価し、予後や治療効果、その他の臨床情報との関連を解析する。また、結果に基づいて治療効果の予測が可能かを評価する。さらに治療効果予測の解析結果を治療決定の参考としたときに予後の改善効果が得られるかどうかを検証する。
論文 T Ito, K Tsuchiya, R Mori, T Akashi, Y Oyama, M Ikeda. Successful osimertinib rechallenge without concomitant corticosteroids after osimertinib-induced pneumonitis. Respir Med Case Rep. 2024 Apr 27:49:102029. doi: 10.1016/j.rmcr.2024.102029. -
生理・行動・画像研究
研究員:榛葉 俊一 (精神科 部長)タイトル 精神症状の新たな生理学的評価法の開発 研究員 榛葉 俊一 (精神科 部長) 概要 うつ病、不安障害、せん妄、認知症などの診断・治療において、客観的な指標として自律神経活動、脳波、脳血流を測定することの有用性を検討している。自律神経活動の指標としては、心拍の変動を周波数分析して求められる心拍変動を用いている。呼吸リズムに連動して心拍が変化する速い揺らぎ(high frequency HF)と血圧のリズムに連動して心拍が変動する遅い揺らぎ(low frequency LF)の二つのコンポーネントがあり、それらのパワー値を自律神経活動の目安にしている。HFは副交感神経活動に関連するこがしられている。一方、汗は交感神経活動単独支配であり、その変動は交感神経活動の使用として用いられる。脳波、脳血流では、安静時や課題遂行時などの記録により、注意・覚醒レベルや認知機能の評価を行う。臨床で利用できる指標づくりを進めている。せん妄の診断においては、自律神経活動指標の記録をもとに生体リズム障害を評価して、適切な診断に結び付けることを目指している。
タイトル 発達障害児における複数の遊具を用いた運動時の自律神経活動変化 研究員 杉山志保、伊井玄 (療育技術科、作業療法士) 概要 発達障害児(発達児)の作業療法において、ぼーっとしているまたは落ち着きがなく覚醒の障害が疑われる児を目にすることが多い。 作業療法の遂行には一定の覚醒水準の維持が必要である。しかし発達障害児においては、前庭・固有感覚等の覚醒水準と関連のある感覚処理の障害が報告されており、覚醒水準の調整障害を引き起こしている可能性がある。本研究では、作業療法における課題遂行中の適切な覚醒水準への調整やパフォーマンス発揮を可能にするプログラム構成を検討すべく、臨床で用いる遊具で運動した時の発達児の覚醒水準を調査した。覚醒水準は、心拍変動(HRV)解析を用いて、心拍間隔の揺らぎを分析し、自律神経活動を介して評価した。その結果、定型発達児と比較した発達児の覚醒水準の特徴として、運動時に覚醒が高まりづらく、運動後は低覚醒が出現しやすいことが示唆された。加えて、遊具の特性により覚醒水準の変化することが明らかとなった。
今後、作業療法を継続的に実施した発達障害児における自律神経活動の変化を調査し、自律神経の側面からみた作業療法の効果を検討していきたいと考えている。
タイトル 妊娠期の活動と分娩の関連 研究員 平國 淳子 (北3病棟、助産師) 概要 近年、健康な妊婦が妊娠期に行う運動は、早産のリスクを上昇させることなく体重増加抑制や精神的健康度の向上に加え、妊娠高血圧腎症や妊娠糖尿病などの妊娠合併症などのリスク低減に効果があることがわかってきた。また、エコチル調査にて国際標準化身体活動質問票(以下IPAQと記す)を用いて測定した妊娠中の活動量が非常に少ないと早産のリスクが増すこと、さらには妊娠中の活動量が少ない群は、中等度の群より帝王切開になりやすいこと、非常に少ない群と、多い群で器械分娩になりやすいということがあきらかになった。しかし、まだ先行研究は少数で有り、そのほとんどが主観的な側面のある質問紙による評価となっている。そこで、客観的に評価できる指標である身体活動計を用いて妊娠後期に妊婦の身体活動量を計測し、さらにIPAC用いたアンケートを実施することで、妊娠末期の妊婦の身体活動の傾向を明らかにしていく。また妊娠末期の身体活動が分娩様式や分娩時間に及ぼす影響について検討していく。
タイトル AIアシスト放射線診断研究:胸部CT画像を用いたCovid-19肺炎のAI診断 研究員 山﨑 敬之 (放射線技術科、診療放射線技師) 概要 AI技術を利用して胸部CT画像を自動解析し、Covid-19による肺炎かどうかのAI診断を行い、医師による診断を補助するシステム開発を行っている。AIプログラムの開発はfcuro社(岡田直己代表、大阪)との共同研究で、当院の救命救急科、内科系診療科との連携に基づいて実用化を目指している。 論文 Naoki Okada, Yutaka Umemura, Shoi Shi, Shusuke Inoue, Shun Honda, Yohsuke Matsuzawa, Yuichiro Hirano, Ayano Kikuyama, Miho Yamakawa, Tomoko Gyobu, Naohiro Hosomi, Kensuke Minami, Natsushiro Morita, Atsushi Watanabe, Hiroyuki Yamasaki, Kiyomitsu Fukaguchi, Hiroki Maeyama, Kaori Ito, Ken Okamoto, Kouhei Harano, Naohito Meguro, Ryo Unita, Shinichi Koshiba, Takuro Endo, Tomonori Yamamoto, Tomoya Yamashita, Toshikazu Shinba, Satoshi Fujimi. "KAIZEN" method realizing implementation of deep-learning models for COVID-19 CT diagnosis in real world hospitals. Sci Rep 2024 Jan 19;14(1):1672. doi: 10.1038/s41598-024-52135-y.
Shinba, T.; Suzuki, H.; Urita, M.; Shinba, S.; Shinba, Y.; Umeda, M.; Hirakuni, J.; Matsui, T.; Onoda, R. Heart Rate Variability Measurement Can Be a Point-of-Care Sensing Tool for Screening Postpartum Depression: Differentiation from Adjustment Disorder. Sensors 2024, 24 (5)1459. https://doi.org/10.3390/s24051459
Shinba, T.; Shinba, Y.; Shinba, S. Asymptomatic Autonomic Dysregulation after Recovery from Mild COVID-19 Infection Revealed by Analysis of Heart Rate Variability Responses to Task Load. Healthcare 2024, 12, 43. https://doi.org/10.3390/healthcare12010043
Shinba T, Kuratsune D, Shinba S, Shinba Y, Sun G,Matsui T, Kuratsune H. Major Depressive Disorder and Chronic Fatigue Syndrome Show Characteristic Heart Rate Variability Profiles Reflecting Autonomic Dysregulations: Differentiation by Linear Discriminant Analysis. Sensors 2023, 23(11), 5330; https://doi.org/10.3390/s23115330.
Shinba T, Nedachi N, Harakawa S (2022) Alterations in Heart Rate Variability and Electroencephalogram during 20-Minute Extremely Low Frequency Electric Field Treatment in Healthy Men during the Eyes-Open Condition. IEEJ Transactions on Electrical and Electronic Engineering, Volume18, Issue1, January 2023, Pages 38-44, DOI:10.1002/tee.23695
Shinba T. Characteristic Profiles of Heart Rate Variability in Depression and Anxiety. in: Biosignal Processing eds. Dr. Vahid Asadpour and Dr. Selcan Karakuş. DOI: 10.5772/intechopen.104205, IntechOpen, London, UK, 2022
Shinba T, Kariya N, Matsuda S, Arai M, Itokawa M, Hoshi Y. Near-Infrared Time-Resolved Spectroscopy Shows Anterior Prefrontal Blood Volume Reduction in Schizophrenia but Not in Major Depressive Disorder. Sensors (Basel). 2022 Feb 18;22(4):1594. doi: 10.3390/s22041594.
Shinba T, Murotsu K, Usui Y, Andow Y, Terada H, Kariya N, Tatebayashi Y, Matsuda Y, Mugishima G, Shinba Y, Sun G, Matsui T. Return-to-Work Screening by Linear Discriminant Analysis of Heart Rate Variability Indices in Depressed Subjects. Sensors (Basel). 2021 Jul 30;21(15):5177. doi: 10.3390/s21155177.
Shinba T, Nedachi N, Harakawa S. Extremely Low‐Frequency Electric Field Exposure Increases Theta Power of EEG in both Eyes‐Open and Eyes‐Closed Resting Conditions in Healthy Male Subjects. IEEJ Transactions on Electrical and Electronic Engineering 16(4): 592-599. Pub Date: 2021-02-24 , DOI: 10.1002/tee.23334
Shinba T, Murotsu K, Usui Y, Andow Y, Terada H, Takahashi M, Takii R, Urita M, Sakuragawa S, Mochizuki M, Kariya N, Matsuda S, Obara Y, Matsuda H, Tatebayashi Y, Matsuda Y, Mugishima G, Nedachi T, Sun G, Inoue T, Matsui T. Usefulness of heart rate variability indices in assessing the risk of an unsuccessful return to work after sick leave in depressed patients. Neuropsychopharmacol Rep. 2020 Sep;40(3):239-245. doi: 10.1002/npr2.12121.
Shinba T, Inoue T, Matsui T, Kimura KK, Itokawa M, Arai M. Changes in Heart Rate Variability after Yoga are Dependent on Heart Rate Variability at Baseline and during Yoga: A Study Showing Autonomic Normalization Effect in Yoga-Naïve and Experienced Subjects. Int J Yoga. 2020 May-Aug;13(2):160-167. doi: 10.4103/ijoy.IJOY_39_19. - 2022年度 研究概要と成果を用いた先進的なとりくみ
静岡済生会総合病院医学雑誌
本雑誌は、静岡県済生会・静岡済生会総合病院における研究・医療・教育・福祉活動などを掲載し、院内のみならず、社会における医学・医療の発展に寄与し、人の健康と福祉に貢献することを目的としています。
医学、歯学、看護学、薬学、心理、福祉、医療技術、医療事務などの幅広い領域から、研究的な内容だけでなく、日常業務の発展的な内容や毎年開催される院内研究発表会の抄録も掲載しております。
ご意見やご質問がありましたら、教育センターまでお願い致します。