home vol.44:外科のダヴィンチ活用
外科 医長 田中 征洋
医学博士/日本外科学会専門医・指導医/日本消化器外科学会専門医・指導医/日本消化器外科学会消化器がん外科治療認定医/日本大腸肛門病学会専門医/日本内視鏡外科学会技術認定取得(消化器・一般外科)/内痔核治療法研究会四段階注射法講習会受講修了/Certificate of da Vinci System Training as a console surgeon
当院の外科ではダヴィンチ導入にあたり、大腸がんの中でも特に症例数が多い結腸がんから適用を開始しました。大腸がんは手術で治すことができる可能性のある癌腫なので、根治を目指すことができると判断した場合は手術治療が選択されます。
ダヴィンチ手術は従来の開腹手術と比べると傷口が小さいため、手術中の出血量が少なく、術後の痛みが軽く、回復も早いため、患者さんにとって低侵襲な手術であるといえます。
術者にとってもダヴィンチ手術のメリットは多く、その最たるものは術者の思い通りにインストゥルメント(鉗子)を操作できる点です。ダヴィンチ手術で操作するインストゥルメントには多関節機能が備わっているので、術者の手があたかも術野にあるかのごとく自由自在にインストゥルメントを動かすことができます。また、従来の腹腔鏡手術とは異なり、ダヴィンチでは術者が自分の手を3cm動かしてもインストゥルメントの先端は1cmしか動かないモーションスケールが採用されており、手ぶれ補正機能により手の震えがインストゥルメントに伝わることがないため、より微細で緻密な手術操作が可能となります。特に結腸がんの手術では、がんの周りのリンパ節を切除するために大きな血管に近づく必要がありますので、精緻な動きにより血管を損傷するリスクを軽減できます。また、カメラがぶれることはなく、術野は常に安定します。さらに、3Dカメラによる立体的な視野は非常に鮮明で、術中の解剖学的構造をしっかりと把握することができ、ダヴィンチにより手術の質が向上していると感じています。
ダヴィンチ手術に関する論文報告を紐解いてみると、腹腔鏡手術に比べてダヴィンチ手術では開腹手術に移行する割合が有意に低くなっています。これは、ダヴィンチ手術は腹腔鏡手術より操作性がよい、つまり、手術の質が高いことを反映しているのではないかと考えています。一方で、大腸がんでのダヴィンチ手術に関する手術成績や長期予後の報告はまだ少なく、ダヴィンチ手術の有用性を評価する報告が出てくることを待ちたいと思います。このような現状の中で、私個人としてはダヴィンチ手術によって手術の質が向上していると実感していますので、患者さんにとってよりよい治療につながっていくと考えています。
今後は直腸がんへの適用も進めていきたいと思っています。直腸がん手術では骨盤の奥底を操作するので、ダヴィンチの自在な動きが力を発揮します。また人工肛門(ストーマ)を造らず肛門を温存できる可能性も高くなり、患者さんの退院後の生活の質を高めることにもつながると思っています。大腸がん患者さんが増えている今、積極的にダヴィンチを活用し、患者さんに最適な手術治療を、そして質の高い医療を提供していきたいと考えています。