home vol.51:【静岡済生会の肺がん治療1】主な治療法
肺がんの治療法は患者さんによって全く異なります。がんの組織型やできる位置、病期(ステージ)、基礎疾患との関係やがん遺伝子のタイプなどにより、適切な診断・治療が求められます。手術を行うのは一般的に初期の肺がんが多く、確実に取りきることを主眼とします。一方、肺の内外に転移しているなど、進行したがんは薬物療法などの内科的治療が中心になります。
●外科的療法(手術)
かつては開胸手術が主流でしたが、現在は小さな傷口で手術できる胸腔鏡手術を使用した手術が増えています。胸腔鏡手術は開胸手術と比べ、体への負担が少ないことがメリットです。しかし、腫瘍の大きさや状態により必要があれば開胸手術を行います。
微小肺がんの手術を可能にする「VAL-MAP」
昨今はCT検査の進化と発展により非常に小さな肺がん病変が発見されるようになってきました。数ミリから1cm強の、悪性度がまだ高くない肺がんまたは肺がん疑いの病変が見つかるようになってきたのです。この段階であれば肺を大きく切除する必要はなく、腫瘍とその周辺を切除すれば治癒につながる可能性が高いので、治療効果が高いと言えます。ただし腫瘍が小さいが故に場所を特定するのが非常に困難となります。以前はCTを撮影しながら皮膚から肺に釣り針のような針を打ち込んで目印として、これを頼りに腫瘍を切除する方法などがありましたが、これには合併症のリスクがありました。
そこで現在は、より安全に目印をつける方法(マーキング)が提唱されてきています。当院ではVAL-MAPというマーキング方法を採用しています。これは肺の表面に複数箇所の色素注入を行い、その色素でできた模様と腫瘍との位置関係を把握して腫瘍の場所を特定するやり方です。肺表面のどのあたりに色素を打ち込めば良いかを特定するため、仮想(virtual)気管支鏡で補助して(assist)カメラをガイドします。そして複数箇所に打ち込んだ色素を地図のようにして(mapping)3次元CTを作成し、腫瘍と色素の位置関係を把握して手術を行い、腫瘍を切除します(Virtual Assisted Lung-MAP)。例えば色素を3箇所に打ち込んで三角形を作ると、その図形と腫瘍の位置関係を3次元のCTで描出することができるので、腫瘍の場所を手術中に容易に同定できて腫瘍を切除することができます。
この手技を用いて微小肺がんの位置確認を行って切除をしている病院は今のところまだ多くなく、静岡市とその近辺では当院のみで行っています。(2025年5月現在)
●薬物療法
従来の抗がん剤に加えて、患者さん自身の免疫を活かしてがん細胞を攻撃する免疫チェックポイント阻害剤や、がん細胞だけに働いて増殖を抑える分子標的薬など、様々な治療薬が登場しています。最近の抗がん剤治療は、薬そのものの進歩や副反応を抑える支持療法の発達で、患者さんへの負担が大きく軽減されています。不安にならないために、正しい理解が大切です。
●放射線治療
放射線でがん細胞のDNAを壊してがんを抑える治療です。痛みなどの辛い症状を抑える効果もあります。化学療法と並行して行い、抗がん剤の効果を高めます。